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鳥取地方裁判所 平成6年(行ウ)2号 判決

鳥取県倉吉市上井町一丁目二〇〇番地

原告

白山環境開発株式会社

右代表者代表取締役

山根清道

右訴訟代理人弁護士

松本光寿

同市上井町五八七番地一

被告

倉吉税務署長 小田雅章

右指定代理人

村瀬正明

徳岡徹弥

小坂田英一

清水茂

有田敏博

高地義勝

表田光陽

木村宏

小林重道

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

被告が原告に対して行った以下の各処分はいずれもこれを取り消す。

1  平成三年一二月二七日付けでした平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分

2  平成四年四月一三日付けでした平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度の法人税の過少申告加算税の賦課決定処分

3  平成三年一二月二七日付けでした平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの課税期間の消費税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

第二事案の概要

一  本件は、産業廃棄物処理業等を営む法人である原告が、被告税務署長の行った法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分等につき、原告に係る土地売買の代金額の認定に誤りがあるなどとして、それら処分の取消しを求めたものである。

二  前提事実(争いがない事実のほか、文中記載の証拠による。)

1  原告は、産業廃棄物処理業等を営む株式会社であるが、平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)における法人税の確定申告書に、別紙の「確定申告」欄のとおり記載し、また、平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税の確定申告書に、別紙の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに被告に対し確定申告をした。

2  これに対し、被告は、平成三年一二月二七日付けで本件事業年度の法人税につき、別紙の「更正処分等」欄のとおり更正処分及び重加算税の賦課決定処分を、また、本件課税期間の消費税につき、別紙の「更正処分等」欄のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

3  原告は、平成四年二月二五日、本件法人税の更正処分等を不服として、国税不服審判所長に対し審査請求をするとともに、本件消費税の更正処分等を不服として、異議申立をしたところ、異議審理庁は、国税通則法八九条の規定により、かかる異議申立を審査請求として取り扱うことを適当と認めてその旨原告に通知し、原告においてこれに同意したため、同年三月三一日、本件消費税の更正処分等についても審査請求がなされたものとみなされた。

4  なお、被告において右重加算税の賦課決定処分につき再検討した結果、被告は平成四年四月一三日付けで、本件事業年度の法人税の過少申告加算税を三〇万六五〇〇円とする賦課決定処分をするとともに、その重加算税の賦課決定処分を一〇九〇万六〇〇〇円に減額する旨の変更決定処分をしたので、これら処分についても併せて審査請求の審理の対象となった。

5  その後、国税不服審判所長は、平成六年三月二八日付けで、右各審査請求をいずれも棄却する裁決をした。

6  ところで、本件で売買代金額が問題とされる土地は、以下の七筆の宅地であり、登記簿上の合計面積は四四七一・〇一平方メートル(実測四五二三・五五平方メートル)である(実測面積につき乙一)。

(一) 鳥取県東伯郡関金町大字関金宿字堤谷一三九八番三(一三八・三八平方メートル)

(二) 同所一三九八番四(一四・五六平方メートル)

(三) 同所一三九九番三(九二三・九五平方メートル)

(四) 同町大字関金宿字大屋敷一四二九番二(三三八〇・八五平方メートル)

(五) 同所一四二九番一一(八・三〇平方メートル)

(六) 同所一四二九番一二(二・六八平方メートル)

(七) 同所一四三二番二(二・二九平方メートル)

7  これらの土地(以下「本件土地」という。)は、平成元年一一月二九日、原告が有限会社総合地所の仲介により、ナショナル観光開発株式会社(以下「ナショナル観光」という。)から代金額四九〇〇万円で購入し(乙一、原告代表者)、同日、所有権移転登記を経た。

原告は、本件土地に温泉付老人用マンションを建築する計画等を立てその実現を目指していた。

8  ところが、その後、大阪市に本店を置く大黒ハウス株式会社(以下「大黒ハウス」という。)が本件土地の買収を希望したことから、関金町に本店を置く有限会社中国山系(以下「中国山系」という。)の代表取締役船越肇(以下「船越」という。)や株式会社今田組の常務取締役今田泰暢(以下「今田」という。)が仲介役となって原告と交渉し、その結果、平成二年九月初めころ、本件土地の売買の話がまとまった。

9  本件土地売買代金の決済は、平成二年九月一一日に大阪府吹田市内の大黒ハウスの事務所で行われることとなったため、当日所用で大阪まで出て行けない原告代表者の代わりに、原告関連会社(代表者は同一)に籍を置く牧田亨(以下「牧田」という。)が行くことになった。なお、本件土地にはシンキ株式会社(以下「シンキ」という。)のために金銭消費貸借を原因とする抵当権等が設定されていたことから、本件売買に際してその抹消登記手続を行うため、シンキの社員一名と司法書士一名も同行することとなった。

10  牧田は、平成二年九月一一日、今田の運転する車にシンキの社員及び司法書士とともに同乗して、予め指定されていた大阪のホテルに赴き、そこで船越らと待ち合わせをした上、同日昼ころ、右大黒ハウスの事務所に到着した。

11  大黒ハウスは、同事務所において、東海銀行梅田支店振出の額面六五〇〇万円、同五〇〇〇万円及び同七二〇〇万円の小切手三通を船越に交付し、引き続いて、船越が別室において待機していた牧田に右三通の小切手の内の額面六五〇〇万円と同五〇〇〇万円の二通の小切手を交付した。

12  牧田は、原告のシンキに対する借入金の返済に充てるため、額面六五〇〇万円の小切手を同行したシンキの社員に交付し、他方、額面五〇〇〇万円の小切手の方は自ら持ち帰った。

その後、シンキは取引銀行に右六五〇〇万円の小切手の取立てを依頼するとともに、本件土地に設定していた抵当権等の抹消登記手続等を行い、原告に対する貸付金元本三九二〇万円の返済処理を行うなどした上で、残余金二五九一万七四三三円を原告の銀行口座に振り込んだ。

他方、右五〇〇〇万円の小切手については、平成二年九月一二日、牧田の取引銀行である山陰合同銀行倉吉駅前支店に取立て依頼がなされ、同月一七日、同行の牧田名義の普通預金口座にこれが入金処理されて、翌一八日、同支店からその全額が引き出された。

なお、その内の二六〇万円については、同月一九日、原告の銀行口座に入金されている(甲三の二)。

13  本件土地は、いったん原告から中国山系が買い受けたうえで(原告と中国山系との売買契約を以下「本件売買契約」という。)、中国山系が大黒ハウスに転売するという経過をたどることとなった。中国山系と大黒ハウス間の売買代金は、一億八七〇〇万円である。

また、原告から大黒ハウスに対して鳥取地方法務局倉吉支局同年九月一二日受付で本件土地につき所有権移転の中間省略登記がなされた。

14  なお、原告は、原告を売主、中国山系を買主、代金六七六〇万円とする平成二年九月一四日付本件土地の売買契約書(乙八号証、以下「本件契約書」という。)を保管し、また中国山系は同月一一日付の原告作成中国山系宛代金額六七六〇万円とする領収証を保管していた(乙一四)。

三  争点

1  原告・中国山系間の本件土地売買の代金額はいくらか。

(被告)一億一五〇〇万円

右代金の決済に当たっては、原告代表者が船越に対し、内五〇〇〇万円について裏金を作出して交付するように要求し、これを了承した船越が、大黒ハウスに依頼して額面六五〇〇万円と同五〇〇〇万円の小切手二通を用意させ、決済当日(平成二年九月一一日)、原告代表者の代理人として大阪の大黒ハウスの事務所に赴いた牧田に交付した。そして、右五〇〇〇万円の小切手については、牧田の取引銀行を通じて換金され、その後原告においてこれを全額取得した。

(原告)六七六〇万円

本件売買の実質的合意は決済当日の数日前に既にできていたが、決済当日、原告代表者は他に用事があって大阪まで出て行けなかったため、一従業員にすぎない牧田を自ら使者として赴かせたところ、牧田は額面六五〇〇万円の小切手とは別に額面五〇〇〇万円の小切手を自己の勝手な判断で受け取り、後日これを換金した中から、本件売買代金の不足分二六〇万円を原告に入金したものであるが、その余の金の流れについては原告はもとより関知しない。

2  原告が本件土地の譲渡のために直接又は間接に要した経費の額の内、販売費及び一般管理費の額はいくらか。

(被告)八五〇万九五〇〇円

右算定方法については原告の利益のために実額配賦法によるべきところ、本件で原告が実際に要した費用である固定資産税、不動産取得税、登録免許税、登記費用及び支払手数料を合計すると、右の額となる。原告の主張する按分計算については、原告の事業内容や費用の性質を無視したものであり、合理性がない。

(原告)二二四四万九〇七〇円

右算定方法については実額配賦法によるべきところ、その計算に当たっては、本件事業年度の総売上高に占める本件土地の譲渡価額の割合や本件事業年度の売上総利益に占める本件土地の譲渡利益の割合等により按分計算をするのが合理的であり、それによると右の額となる。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件土地売買の代金額)について

1  前記前提事実及び証拠(乙一四、二〇、証人船越肇の証言)によれば、本件土地売買代金は、一億一五〇〇万円であり、原告において当該代金を受領したものと認定できる。

2  即ち、前掲証拠によれば、船越は、本件売買契約の代金について一億一五〇〇万円である旨国税局係官に説明し、また倉吉税務署長宛「約証書」と題する書面を提出していることが認められる(以下、代金についての説明等を「船越供述」という。)。

船越供述は、前記前提事実のうち、取り分け、(一)牧田が平成二年九月一一日に額面六五〇〇万円と同五〇〇〇万円の二通の小切手に分けて合計一億一五〇〇万円を受領したこと、(二)本件土地に係る中国山系の転売価格が一億八七〇〇万円であったこと、(三)原告代表者が、本件土地について開発計画を持っており、特に売り急ぐ事情もないのに、本件売買による土地譲渡による利益がいわゆる超短期所有に係る土地の譲渡として特別税率による課税の対象とされる時期に敢えて本件売買契約を締結したこと等の事実、加えて(四)土地取引においては通常当時の取引相場を基本として代金額が決定されるものであるところ、原告と交渉にあたった今田及び船越は、本件土地近辺の宅地の相場が本件売買契約当時坪当たり八万円ないし一〇万円であったと認識していた事実(前掲証拠及び乙二、証人今田泰暢)などを合理的に説明できる内容である。更に本件売買契約に深く関与した今田が、本件売買契約の代金について、国税局係官に対する説明時から一貫して船越供述に符号する説明(乙二)・証言をしていること等の事情によれば船越の本件各売買契約における立場を考慮しても、船越供述は十分信用できるものと評価できる。

3  なお、原告代表者は、本人尋問において、本件土地はその利用方法について関金町との契約上の制限が多いため、坪四万円くらいが当時の相場であった旨供述しており、なるほどナショナル観光と原告との間の売買代金は、前記のとおり四九〇〇万円であるので、これを公簿上の合計面積を基に坪当たりに換算すると約三万六〇〇〇円となる。しかし他方で、原告代表者本人尋問の結果によれば、右ナショナル観光・原告間の売買に関してはナショナル観光の側に売り急ぎの事情があったことが窺われるわけであるし、また、証拠(甲六の一ないし七)によれば、原告が右売買代金の融資を受けたシンキのために本件土地に設定した抵当権の被担保債権の額は六一〇〇万円であったことが認められるところ、単純にこれを公簿上の合計面積を基に坪当たりに換算しても約四万五〇〇〇円となる。

また、証拠(乙二三ないし二七)及び弁論の全趣旨によれば、本件土地近辺の宅地について、昭和五九年当時のもので坪当たり約五万円、昭和六一年当時のもので坪当たり約六万七〇〇〇円、平成三年当時のもので坪当たり約一五万五〇〇〇円として評価されたと見得る極度額の根抵当権が設定されていることが認められ、これらの事実関係に照らせば、少なくとも原告代表者の供述の内、本件土地の相場を坪当たり四万円くらいと認識していたとする点は俄に採用することができない。

4  もっとも本件では、前記のとおり売買代金六七六〇万円とする本件売買契約書及び同額の原告会社の領収書が存在し、原告代表者は、前記代金の算出根拠について坪五万円を公簿上の面積に乗じた六七六〇万円と算定した旨、当該契約書について、本件売買契約は、平成二年九月一一日に履行されることになっていたので白山産業有限会社の宅地建物取引主任者である秋藤健に指示してあらかじめ契約日の二、三日前に本件契約書を作成させたうえで契約当日用意していた旨、契約日付を同月一四日としたのは二六〇万円が入金になった日を契約日としたからであるなどと供述する。

しかしながら、仮に本件売買契約の代金について原告代表者供述の算出方法で算出するならば、前記のとおり本件土地の実測面積は公簿面積より大きいことが判明していたのであるから、実測面積を基に算出するのが通常であると見るべきであり、また本件契約書には、例えば契約締結日については仮に原告代表者の供述によるとしても二六〇万円が入金されたのは前記のとおり同月一九日(または前日)であるから同日を記載すべきところ前記のとおり同月一四日となっている等本件取引実体とは異なる内容の記載があること、また仮に本件売買代金が六七六〇万円であるとすると前記2項(一)ないし(四)の事実について合理的に説明することが困難であると見るべきであること等の事情からすれば、前記契約書及びこれに沿う原告代表者の供述の信用性は乏しいと言わざるを得ない。

その他前記代金額に関する認定を覆すに足りる証拠はない。

5  更に、これまで認定・説示した内容に加え、証拠(乙一四、二〇、証人船越肇の証言)によれば、本件売買契約の代金決済終了後に本件売買契約書が原告から船越宛に送付されてきた事実が認められ(右認定を覆すに足りる証拠はない。)、これらの事実関係によれば、かえって原告代表者は、真実の本件売買代金は一億一五〇〇万円であるのに殊更それを隠ぺいして本件売買代金六七六〇万円と仮装する手段として本件売買契約書及び領収証を作成させたと認めるのが相当である(右認定を覆すに足りる証拠はない。)。

なお、牧田は、五〇〇〇万円の小切手については買主側の仲介人と思ったという初対面の男上松から一〇〇万円の報酬で、本件代金額の決済とは別に換金を依頼され、自己の勝手な判断でこれを受け取ったものである旨証言する。しかし、初対面の相手が唐突に不正行為に加担するよう持ち掛け、額面五〇〇〇万円もの小切手の換金を委ねたというのも不自然であるが、牧田において、その間の事情等を確かめることなく、かつ、不明朗な金銭の動きであるのに、その出入りの痕跡が残ることになる自己の口座利用を受け入れて、その話に乗ったというのも理解に苦しむところである。その他これまで認定・説示した事柄に照らせば、その証言は、到底採用することができない。

二  争点2(販売費及び一般管理費の額)について

この点、原告の前記主張は租税特別措置法施行令三八条の六第四項、三八条の四第八項(平成三年政令第八八号による改正前のもの)に規定する実額配賦法を前提とするものであるが、そもそも同方法は、法人が当該事業年度に行った土地の譲渡等のすべてについて支出した経費の総額をまず算定した上で、当該土地の譲渡等に係る経費の額を算定するといういわば二段階の処理により、合理的な経費の額の算定を行うことを予定したものであると解されるところ、証拠(甲一、原告代表者尋問)及び弁論の全趣旨によれば、原告の主たる業務は産業廃棄物処理業であって、不動産売買は付随的業務にすぎないこと、また、これら両業務にあっては販売費及び一般管理費の内容・性質も異なるものであることが推認されるのであって、そうするとこれら業務を区別することなく、販売費及び一般管理費の額について総売上高ないし売上総利益による按分計算を主張することは、およそ合理性のないことが明らかというべきである。したがって、右原告の主張は採用の余地がなく、かえって実額配賦法によることを前提とする限り、被告主張のとおり、乙一五及び弁論の全趣旨により認められる本件土地の譲渡に関して原告が実際に要した費用の総額、すなわち固定資産税、不動産取得税、登録免許税、登記費用及び支払手数料の合計の八五〇万九五〇〇円をもって販売費及び一般管理費の額と認めるのが合理的である。

三  以上によると、被告が(一)本件売買代金額を一億一五〇〇万円、課税土地譲渡利益額を五四七九万五〇〇〇円と認定したこと、(二)原告会社において、本件売買代金を六七六〇万円であるかのように仮装するため虚偽の売買契約書を作成し、その仮装したところに基づいて納税申告書を提出したと認定したこと、(三)原告会社の法人税及び消費税の更正処分の税額の基礎となった事実が更正前の税額計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法六五条四項所定の正当な理由がある場合に該当しないと判断したこと等は、いずれも相当であって、これらの事実関係等を前提とした本件各処分に瑕疵はない。

したがって、本件請求は理由がないから、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 廣田聰 裁判官 渡邊雅道 裁判官 山本善平)

別紙 〈省略〉

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